釣り人 庄山 晃さんの釣りとそのご意見を紹介します
『鉄オモリの有効性』
ところで、鉛中毒という言葉もあるように、鉛の毒性については今さら申すまでもない。将来的な海洋汚染を心配する友人などは、環境省が鉛オモリの使用を禁ずべきであると断言する。
この鉛に代わって注目されるのが鉄オモリ。鉛に比べると比重が小さく、その分だけ体積が増え、潮流の影響も大きい。量産体制にない現時点では若干値も張る。
釣り優先に考えるとデメリットもあるが、将来、魚を釣っても重金属汚染で食べられなかったり、あるいは釣りそのものが不可能となっていたら、デメリットと言えるだろうか。
もう一つ注目。過日に日経新聞が報じていた記事によれば、鉄は無害なばかりか、珪藻など植物性プランクトンの発生に有効に働くことが環境省や水産庁の外郭団体の研究によって実証されつつ、実験中とあった。
植物性プランクトンは光合成により海中の二酸化炭素を吸収しつつ生育する。食物連鎖で動物性プランクトンも増え、魚も増える期待もある。
よしんば魚のエサとはならないまでも、海中の二酸化炭素が減った分は、空気中のそれが海水に溶け込むのがミソ。そして最終的には珪藻土となって深海に安定した形で固定されるそうだ。
つまり海中に鉄分を散布することにより、地球温暖化の元凶とされる大気中の二酸化炭素を削減できるのではという大きな期待だ。
鉛オモリに代わって鉄オモリの使用は、毒性を排除するばかりか魚を増やし、二酸化炭素を減らすという一石二鳥の効果があるわけ。
すでに2〜3のメーカーによって販売されている模様だが、釣り大好き人間が社長の川口の鋳物メーカー入野さんもその一人である。
こちらでは10〜600号の鉄オモリのほか、前述の理由から鉄成分を主体にしたマキエ、ネリエの活性添加物も開発したという。
鉄オモリは6月から釣り具の丸勝各店で発売の運びとなり、一般にも入手可能となったからありがたい。
環境を守るこの鉄オモリを遊漁船側でも積極的に導入して欲しいし、これは同時に地域ぐるみで取り組んでもらいたい課題だろう。
鉛オモリの既存メーカーには耳の痛い話であろうが、過去に排水規制で汚濁の海が蘇えったように、今こそエリを正す時ではないだろうか。
釣り人にも若干の出費が求められる話ともなろうが、需要が伸びて量産されれば、価格的には今よりも安くなる見込みで釣り人自身が鍵を握る。
使い勝手に慣れるにも多少の時間がかかるし、船上でのオモリの形状不統一もトラブルを引き起こすだろうが、将来のかかった問題として捉えてほしい。
昔は魚がたくさん釣れた、しかし今はと考えるとき、鉛オモリも環境破壊に手を貸したと短絡的に結論し、ここはぜひとも釣り人パワーで打開しようじゃありませんか。
「釣り情報」2003年5月23日号より抜粋いたしました
『救われない輩』
この釣りほど友達をなくす釣りはない。なんと言ってもすること、
なすこと、すべてがいじましく、せせこましいのだ。
仕立船でたまに一緒になったとしよう。お天気の話などしつつ、口では笑
っていても、目はもうひきつっている。
潮先の釣り座に飛んで行って、手早く準備を整え、船長の投入合図を遅し
と待つ。ほかのだれよりも先に釣ってやろうの魂胆が見え見えの手合いだ。
オモリも乗合船に倣って25号くらいを使うのが普通だが、人より早く仕掛
けを下ろしたいから、密かに30号や35号を使う輩だ。仕立船であるからこそ、
20号くらいにして、カワハギの釣趣に満ちた引きを楽しみたいのに、そんな
雅な心は通じない。
仕掛けを下ろす間すらが、もったいないと思う輩で、魚が掛かっても引き
を楽しむなんて眼中にない。ゆっくり巻くのは時間のロスとしか考えない。
先に1枚でも釣ったとしよう。もう天下でも取ったかのように、声高に
はしゃぎ回り、わざと周囲を威圧する。
ガーンと一発の先制攻撃こそが必勝パターンであると思い込んでいる鼻持ち
ならない輩だ。
その後も釣る度に、わざと大きくバケツに音を立てて投げ込み、「誘わない
でも食ってきた」など、まったくの嘘を聞こえよがしに言う。
船が移動ともなれば、ハリスだの仕掛け全体だのすぐ新品に交換する。常
にハリ先の鋭い状態を保つことで、より早く、より多くと企むわけだ。
日ごろはケチのしみったれで、コーヒー1杯おごるなんてこともしないのに、
人よりたくさん釣るためには金に糸目をつけない人物に豹変するから付き合
いづらい。船の移動中にすることがなくなったら、離れた席に行き、まずバケ
ツの魚を数えてから「何枚釣ったか」とわざと聞く。
そして、油断する相手には自分の釣った数を少なく伝え、萎縮する相手に
は水増し釣果を伝えては撹乱する。
その張本人のもとに様子を見に行ったとしよう。気配を感じる前にバケツの
釣果は一部を残してクーラーにしまい込み、人には全体を見せようとはしない。
仕掛けやエサ、そしてエサの付け方など、仕立船仲間なのに見せようとは
しない。ましてや、仕掛け頂戴なんて言っても、「作って来れなかった」と平然
と答えて、絶対にくれない。
そのくせ、竿やリールの自慢はする。だれが作った和竿で、その竿師とは懇
意な間柄にあるとか、ないとか知ったかぶりを吹まくる。
尋ねてもしないのに、自分の竿がいかに優れているかと、竿師や釣具店主
の受け売りの講釈を始めるばかりか、家においてある竿の値段まで誇らし気
に言う。
ひたすらに数だけを釣りたく、ワッペンサイズだろうが、バッジサイズだろうが、
1枚は1枚と鬼のように釣る。
あるいは、15センチ以下の放流をいいことに、1枚放流してはプラス1を
加えるなど正確な足し算のできない輩もいる。
他人の釣果を全部聞いてからでないと、自分の釣果は言わず、しかしその
数は隣合った人が目を丸くする数。
この輩は決してクーラーの中を見せようとはせず、船宿の女将さんにその
不可解な数字を伝えて、竿頭と胸を張り、堂々と引き上げていく。
カワハギ釣りをことさらに難しい、高度な釣りと位置付けてか、経験も短
く、実績もないのに、古くから研鑽したと虚勢を張り、カワハギの申し子の
ように振る舞う輩もいる。
たかが一日のカワハギ釣りの勝敗なのに、勝てば自分は天才であるかのよ
うな優越感にひたり、負ければ劣等感の虜になってしまう輩。
元来、勝負などとは無関係に釣りそのものを楽しめればいいのに、知らぬ
間に隣人と競争していたり、勝敗でしか結果を考えられなくなっている輩。
もちろん競技会などあれば、仕事も放り出して参加し、姑息な手段を次つ
ぎと繰り出しては上位入賞を狙う。
魚の習性も釣り方も本当は少しも分かっていないのに情報誌に能書きなどの
御託を並べる破廉恥な目立ちたがり屋。
友情どころか、他人を出し抜くことしか考えないカワハギ釣り。自分がいつも
王者でないと気が済まないカワハギ釣り。
こんな友達をなくすばかりの、せこい釣りが世の中にあっていいものかと
疑問に思うが、実はこの釣りを私は一番好きなのだから、やっぱり私も
救われない輩なのだろう。
辰巳出版「カワハギ攻略マニュアル」より
平成19年2月 筆者 庄山 晃さんの承諾を得て掲載いたしました